下町人情モノ。いわゆる細腕繁盛記ってやつ。

山本一力の作品は「あかね空」がなにかの賞をもらって一気にメジャーになったときにいくつか読んだ。内容はどれも好きなのだが、残念なことにどれもちょっと冗長というか、テーマに対して書きたいエピソードが多すぎるのか全体に雑然としたイメージがあるところが疵だ。この作品も、回想と現在進行がわかりにくく入り組んでいるし、人物が伏線的に出てきてもそれが最終的には放置された感じになったりしてどうもすわりが良くないのだ。結果、最後の終わり方が中途半端な感じになった。

とはいえ、主人公のつばきがその卓抜した感覚で成功していく姿を追いかけるのはとても楽しい。次はどうなるかとワクワクしてどんどん読み進んでしまう。周りで見守る人々の暖かい下町の風土は一種の理想郷だ。こんな時代に生きたかったと考えてしまうくらいだ。

山本一力の作品に出てくる人物は誰もがどこか素直なところを持ち合わせている。それはそのまま彼の人間観を表しているのだろう。それは池波正太郎の描く世界にどこか似ている。

それにしても、だれもが虜になってしまうつばきの炊くご飯。なんとかして食べてみたいと思うのは読者の共通の思いだろうな。