思念波

イレーヌ・カーン

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僕の机の横にイレーヌ・カーン嬢がいる。
レプリカでもなんでもなくて、ジグソーパズルなんだけど、もう18年近く僕のそばにいる。
ふんわりと豊かな髪、透き通るように白く、ほんのりと紅がさした頬。青い目。ふっくらとやわらかそうな手。ほとんど一目惚れのままで、僕が結婚し、家を3度引っ越してもずっとそばにいる。
ある日、なんとなく美術館に行って絵を見ていたら、なんだか不思議な感覚に驚いたことがある。乾ききった心に透き通った水が滴り落ちたような感じ。なんの絵かは覚えていないんだけど、その絵の前に何十分か立ち、近くの椅子で一休みしてはまた何十分か立ちつくしていた。
何時間かを過ごしてロビーの上にある広いガラスの窓から見た木々の緑がとても新鮮に見えた。
自分の頭の中がすっきり澄んだようになって、そのとき僕はひとつの幸せを見つけることができた。
芸術を鑑賞するのにはものすごいエネルギーがいる。自分の中に生まれては消えていく感覚の一つ一つを注意深く観察するのには忍耐力がいるのだ。それはそれを創造した人の費やしたエネルギーを感じることなのだろう。そして、それを感じたとき手に入れることができるものがある。
そういう時間や感覚を忘れないでと、彼女は僕にささやいてくれた。
彼女の声が聞こえたのは、何年もかけて消耗した僕の心に何かが戻ってきたからなのだろう。
もう少ししたら、また絵を眺めに行ってみよう。それまでに心も身体も鍛えておこう。

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nyao

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